9月13日、大阪市にある此花区民ホールにて「参地直笑 祭in此花区」が開催されました。
同イベントは、大阪市と吉本興業が地域の活性化のために手掛ける「大阪市24区 創作落語プロジェクト」の一環で、桂文枝が大阪市24区それぞれの特色を盛り込んだ創作落語を新たに作り各区で披露するもの。今回は今年3月の住之江区、5月の大正区、7月の港区に続く4回目の実施となります。
また、ステージには桂文枝に加え、桂三語と学天即、「此花区住みます芸人」のカリントウも登場。それぞれが此花区を盛り上げた様子をご紹介します。
まず、前説として現れたのは此花区住みます芸人カリントウです。
「此花区住みます芸人」である2人にとって此花区は言わば地元。そこで、かわばたは客席を見渡し「(観客は)ほぼ見たことある感じ」と彼らならでは"つかみ"を繰り出します。さらに宮本は「此花区の人は3階以上に逃げなあかんねん」と、此花区の防災情報も盛り込んだツッコミも披露。楽しくて、しかもためになる漫才で会場を温めてくれました。
エンジンがかかって来た観客をさらに本気にさせるように、「いらっしゃ~い!」の挨拶で桂文枝が早くも登壇。
落語の前に今回のイベントについて、そして自身の創作落語について話を聞かせてくれます。特に落語作りのため、此花区を取材で訪れた時の様子はプロジェクターを使って紹介。淀川のウナギ漁や本宮鴉宮をはじめ観客にとってなじみがある場所が映像として映し出されます。
トップバッターは学天即。「THE MANZAI」では決勝進出も果たす実力派だけに、会場には登場と同時に大きく手を振るファンの姿も!
そして奥田は、会場の最寄駅である千鳥橋駅に来る時に誤って快速急行に乗って尼崎駅まで行ってしまったという、地元民には"あるある"の失敗を明かして観客との距離を縮めると、すかさずつくねも文枝をまねて「僕も老後は此花区に住もうと思います」と"よいしょ"。区民をいっきに和ませます。
そして結婚式をテーマに漫才を展開。テンポよくボケを繰り返してトークへと引き込みます。芸達者ぶりを存分に発揮し、老若男女がリラックスして楽しめる漫才で観客を笑顔にしました。
漫才のあとは、文枝の弟子・桂三語の落語です。初めに"実は生まれは此花区!......の友達がいます"と笑いの先制パンチを打ち、観客のハートをつかむと始まったのは"アホちゃう?"という大阪人の口ぐせの話。会場に"あ~!"という共感が生まれたところで、次は"本題"の小噺へ。
"つまらん""いっぱい飲める"が口ぐせの主人公の友人と主人公が、お互いそのひと言を言わせるためにあれやこれやと仕掛けて競う様子が、まくしたてるような会話で表現され、その臨場感あふれるパフォーマンスに観客は思わず集中してステージを凝視します。また話には主人公のアドバイザーも現れることで、主人公は期待にあふれたり、がっかりしたり、時には冷静に策を練ったりと、気分が七変化。それに合わせて緩急つけた口調が耳に心地よく、高速で畳み掛けるひと幕では、よどみのない見事なしゃべりに拍手も起こります。また気になる主人公とその友人の勝負の結果も最後にガツン!と、どんでん返し。観客は、あと味スッキリ!といった具合の爽快な笑いを満喫しました。
ここまで3組、十分に笑いが会場を包み込んだところで、ついに桂文枝が高座に上がります。
まずは人気者の文枝らしく、サインを求められた時の十人十色の人間模様をさすがの観察力で紹介。その情景が鮮明に目に浮かぶようです。
そして観客の想像力を高めたあとに続くは、お待ちかねの新作落語「しあわせの寝床」。
まず話は夫婦が食事処でうな丼を食べるところから始まります。しかしその何気ないひと件にも、文枝の知識と今回の取材の成果がぎっしり。例えば大阪ではウナギの頭を半助と呼び、それを鍋にして味わう理由も盛り込まれ、会場からは「ほ~!」という感嘆の声も上がります。また、ウナギをさばいたり焼いたりする描写も秀逸。きっと多くの観客がゴクリと生唾を飲んだことでしょう。
さらに「伝法港」や「四貫島商店街」、「ときめきすとりーと」など此花区に実在する地名が続々とあげられ、地域密着感も抜群! 観客を大いに喜ばせます。一方話は、斬新にもウナギの親子の視点に移り変わり、そのウナギ親子の会話も繰り広げられます。しかもウナギ漁の漁師と人間に化けたウナギの息子のやり取りもあり、ファンタジーの様相に......。加えてその漁の様子では、今も淀川に伝わるタンポ漁が描かれ、今日最初に見た取材時の映像と一緒になって漁の伝統がいきいきと伝えられます。もちろん話もどんどんと思わぬ方向に広がり、観客はそのスピード感ある展開に釘付け! "いったいどうなる?"と高揚します。しかし最後には、食事処の場面、ウナギ漁師の策略、ウナギの親子の掛け合いなど、序盤の伏線が見事にすべて回収され、最後はついニヤリとなる、絶妙なオチに!
名人芸のすごさを感じさせ、時間を忘れさせる圧巻の物語は締めくくられました。
文枝の落語で沸いた会場は、前田此花区長と文枝によるトークコーナーでランディング。
前田区長は「みなさん、どこのこと(落語中の地名)を言っていたかはっきりわかったでしょう? あれだけ取材をしてくれて、密度と愛がある落語に感激でした」と述べ、大満足の様子です。また文枝も「これ(「しあわせの寝床」)はここだけで終わらせることなく、もっと練り上げてこれからも此花区を宣伝できればなと思います」と力強いコメント。これには観客も再び大いに沸き立ち、「参地直笑 祭in此花区」は盛況のうちに幕を下ろしました。